研究事例紹介
みんなのために調べているのに、なぜか「自分がいいと思うもの」ばかり探してしまう?
この研究では、旅行や食事など、みんなで何かを決めるために一人で下調べをするときに、他人を考慮するのを忘れるのを防ぐための「介入」について調査・分析しました。 そのために、現在の調べている内容をもとに「○○な人もいるかも」と、様々な条件で他者を考慮させるメッセージをAIで生成し、調べものの最中に表示する実験を行いました。 実験中に実際に提示された約100件の介入を分析した結果、ただ他人を意識させればよいわけではなく、「実際に当てはまる人を思い浮かべられること」と「自分がまだ考えていなかった視点であること」が、その後の検索や意思決定につながる重要な条件であることが分かりました。
家族旅行の行き先、研究室の懇親会のお店、友人との遊びの計画など、複数人で相談して何かを決めることがあります。
そのとき、全員が集まっていきなり話し合うのではなく、誰かが事前に、
- どんな場所があるのか
- どのお店がよさそうか
- どんなプランが作れそうか
といったことを下調べして、いくつか候補を持っていくことが一般的です。 こういった場合、自分一人で検索していても、実際には「自分のためだけではなく、みんなのために調べている」と言えます。
・・・ところが、この際に、他人のために調べているはずなのに、独りよがりになってしまうことが、よくあります。 たとえば研究室旅行を調べる担当になったとして、自分が海鮮を食べたければ海鮮のお店を調べ、自分が観光したい場所があれば、その周辺について詳しく調べてしまいます。 一人で情報を集めていると、どうしても「自分が気になったこと」を中心に検索してしまい、そこにいないほかの人の希望や事情は忘れがちになります。
最近では、こうした下調べに、ChatGPTなどの生成AIを使うことが一般化しています。 一方で、生成AIは基本的にユーザに迎合する傾向があるので、こうした「独りよがりな下調べ」を皿の助長する傾向があります。
そこで、生成AIを使った調べものの最中に、「ほかの人は、こう思うかもしれませんよ」と声をかけて、独りよがりを防ぐ仕組みを考えます。
たとえば、
- 「たくさん歩くのが大変な人がいるかもしれません」
- 「お酒が飲めない人がいるかもしれません」
- 「地元ならではのものを買いたい人がいるかもしれません」
といった一言です。
一方で、このような介入をランダムに出しても、効果があるとは限りません。 そこで、本研究では、「どんな介入メッセージが、人に他人を意識させ、探索行動を変えさせ、探索の最終結果まで変えさせるか」を、段階的に調査しました。
実験では、録画をしながら、実際に介入機能付きの生成AIを使って、調べものをしてもらいました。 そして、実験中に提示された98件の介入について、一つずつ分析しました。 参加者に実際の操作画面を見返してもらいながら、
- その一言を見て何を考えたか
- 誰かのことを思い浮かべたか
- その後の検索に影響したか
- 最終的な旅行プランに反映したか
を聞き取りました。
さらに、それぞれの介入がどのように受け取られたのかをコーディングし、「どんな一言なら、本当にほかの人を考えた行動につながるのか」
実験結果を分析すると、介入を受けた際に、7割の場合にほかの人の存在を思い出しました。 しかし、「そういえば、ほかの人もいるな」と思うだけでは、実際の行動はなかなか変わりませんでした。 他人の存在を思い出しても、調べものの内容を変えたり、調べものの結果のプランを変える介入には、条件があることが分かりました。
分析を通して、人が行動を変えるのに必要な条件の1つとして、「その一言から、実際の誰かを思い浮かべられるかどうか」が重要だとわかりました。
たとえば「長時間歩くのは大変な人がいるかもしれない」と言われて、「確かに、体力的に大変そうなメンバーがいる」と具体的な人を思い浮かべた参加者は、実際に旅行プランへ休憩時間を追加しました。 「お酒が苦手な人がいるかもしれない」という介入から実際のメンバーを思い出し、ソフトドリンクのある店へ計画を変更した例もありました。 逆に、「うちのメンバーには、そんな人いないな」と思われた介入は、ほかの人の存在を思い出させることはあっても、その先の行動にはほとんどつながりませんでした。
また、思い当たる人がいたとしても、「自分がまだ考えていなかったことを言われること」に関する介入じゃないと、行動を変化させないことが分かりました。 「それは考えていなかった」「確かにそれも調べた方がいい」と感じた介入は、その後の新しい検索につながりやすいことが分かりました。 実際に、「地元ならではのお土産が欲しい人がいるかもしれない」という一言から特産品について検索したり、「食後すぐに活動するのは大変な人がいるかもしれない」という一言から休憩場所を探したりする行動が観察されました。
これらの実験結果は、単に、「ほかの人のことも考えましょう」と言えばよいわけではないことを示唆しています。 今回の分析から、ほかの人を考えた検索や意思決定につながりやすい介入には、
- 今やっている検索と関係がある
- 実際に当てはまりそうな人がいる
- まだ本人が考えていない視点を提示する
- できれば「○○さんのことだ」と具体的な人を思い浮かべられる
という特徴があることが分かりました。

研究室旅行のプランを生成AIで調べている途中に、「ほかの人ならこう思うかもしれない」という一言を提示。実際に提示された約100件を分析し、どのような内容なら検索や最終的なプランの変更につながるのかを調査。
文献情報
- タイトル:
- Agent-Based Interventions to Support Proxy Information Seeking for Group Decision-Making
- 著者:
- Yasuyuki Wada, Takehiro Yamamoto, Yusuke Yamamoto, Yoshiyuki Shoji
- 書誌情報:
- Proc. of the 28th International Conference on Information Integration and Web Intelligence (iiWAS 2026), to appear, 2026